惑
美しい鄒氏。
美しく艶かしく美しく。
ただ美しい女だった。
その美しさに殺されかけ、大事なものが殺された。
後悔している。
お前は笑うだろうか、劉備。
嘲うだろうか劉備。
お前になら後悔はしないと伝えたなら。
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宛城から命からがら逃げ延び、ようやく本陣にたどり着いた曹操は、典韋を失った事を知り。
息子を、寵臣を自らのせいで失ったことを心の奥底から悔やんでいた。
美しい女だった。惑わされるほどに。
だが。
彼らの代わりになどなるはずもない、なれるはずもない。
あれはただのオンナでしかなかったのだから。
亡くなった者たちの弔いを終えると、心にできた隙間が自分を責め苛んだ。
普段であればそのように自己を悔やみ前にすすめない心持にすら縁はなかったのに。
既に曹操の心からは鄒氏の顔すら消えかかっていた。
だが、たった一つ残っていた面影がある。
それは彼女が最初に見せた涙だった。
亡き夫を儚んでいたのか、その涙を見たとき思ったのだ。
劉備 を。
ふと、劉備がいるはずの予州への方角に馬を走らせた。
一晩でつけるはずはない場所。
なのに、無性に会いたいと思った。自らが認めたもう一人の英雄。
そして、全てを手にしたいと思う存在。
お前を思い浮かべなければ、曹昂も典韋も、誰も失わなかったかもしれない。
お前は、こんな俺を笑うだろうか。
途中まで走らせ、予州の方角を見た。
劉備のいる空を。
その時。
「曹操殿…?!」
「……!」
夢か、と思った。
だが、人影は夢でなく近寄り、夢でなくそこにいたのは劉備玄徳、その人だった。
「劉…備…何ゆえこのような…。」
「それは…こちらの言葉です。
宛城にて奇襲を受けたとの連絡を…それで、ご無事かと…。」
劉備らしい、乱世にらしくない誠実で仁にあふれた理由だ。
まさに二心なく…今、彼が身一つに等しい状態で来ているのでもわかる。
そんな状況を確認するのも…今はわずらわしいほどだが。
今はただ、嬉しいと感じている。
その心のまま曹操は馬から降りると馬に乗ったままの劉備を抱き寄せた。
「曹…!」
「……拒むな……。」
そのまま引き寄せるとずるり、と劉備の体が傾く。
「わ…!」
どさり、と劉備の体が曹操に覆いかぶさるように落ちた。
「も、申し訳ない曹操殿…!」
大急ぎで体を起こそうとするが。
曹操は、劉備の体を離さなかった。
「…?!」
そのまま体の位置を代え、曹操は劉備に覆いかぶさった。
「そ、曹操殿…?!」
「……何もせぬ…このままで…。」
そのまま劉備の体を抱きしめる。
思っていたよりも筋肉の付いた体…女のような柔らかな体ではない。
だが、女など比べ物にならない程に…。
曹操の心に劉備の体温はしみ込んでいった。
「曹操殿…。」
劉備はそれ以上聞くこともなく、ただ夜空の下、おとなしく曹操の腕に抱きしめられていた。
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お前は俺を惑わせる。
だがお前にならかまわない。
お前にならいくらでも惑い、そして…。
失うことがあっても。
きっと、悔やまない。
お前はそれだけの 男なのだ。
end
男尊女卑もはなはだしい文章で申し訳ありません…!!
いえ鄒氏もかわいそうな女性だと思うんですが…その、あまりに没人格なキャラというか…。
流されるままに奪われ何の意図もなく曹操をただその色香で惑わせた、というイメージが大きいんで、こういう扱いにしちゃいました。
ホントすみません。
これ無双でも蒼天でもいけそうで、でもどちらでもないような雰囲気になりました。
宛城のあと、傷ついた曹操さんを慰める劉備さんを書きたいなあ、と思って;
あえて言うなら吉川か?でも文章書いている間のビジュアルイメージは無双でした。
なので一応無双に分類させていただきます…。
読んでくださった方、本当にありがとうございました!
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